極端なデフレに陥るゲーム業界

久しぶりのエントリになってしまったが


 2010年4月1日 ソニーコンピューターエンターテイメント(以下SCE)が事実上の解体の憂き目にあった。
正確に書くと、親会社のソニーがSCEを「SNEプラットフォーム」という会社名に変更し、ゲーム機やソフト開発などを
新SCEに引き継いだ後に残ったネットワーク部門を吸収合併するというものだ。
ここで問題となったのがこれに関する一連の報道である。
日本経済新聞社債務超過に陥っているネットワーク部門と報道したためSCEは債務超過状態だったのではないかと
憶測が流れたのだ。 


 最近の日本におけるゲーム会社の収益は急降下している。
バンダイナムコホールディングスも10年3月期の決算を85億円の310億円の赤字と計上。
結果、突然の社長交代劇も演じている。
なぜこんなことになってしまったのか? 


 ダイヤモンドオンラインでは護送船団方式が崩壊し、現在の覇者である任天堂が単独でゲームソフトの多様性を確保したからだと
報道していた。 また、他の開発者からは不況による可処分所得の減少や携帯電話やネットにより時間を消費する方法に
多様性が生まれたからだと述べていた。
確かにこの指摘には一理ある。 だが、今回はもっと別の切り口からゲーム会社の収益悪化の原因を指摘してみたいと思う。


 実は昨今のゲーム環境は極端なデフレとなっていることにお気づきだろうか?
 一つは携帯電話やiphoneなどの存在である。 携帯電話もiphoneも現在流通しているゲーム機とほぼ同等の性能を有している。
しかしながらiphoneアプリは1000円前後、携帯電話が月額料金とは言え500円から1000円という料金体系となっている。
 MixiGreeなどの無料ゲームも脅威だ。 困ったことにこれらのビジネスはゲームをお金を集めるための撒き餌と考えており
いざゲームから収益を上げるにもそのビジョンが不明瞭という始末の悪い存在である。
 任天堂Wiiバーチャルコンソールもデフレに一役買っている。 かつては5000円から10000円したコンテンツは
今では高くても1500円で買える。 プレイステーションネットワークにあるプレイステーションアーカイブスに至っては
昔のプレイステーションのゲームを買えるばかりか高画質で遊べるプレミアムまでついている。
 パソコンにおける同人系ソフトも脅威だ。 大きなジャンルだと数十万本の売り上げを上げる上、ソフトの価格が
1000円から2000円前後とゲームの規模を考えるとリーズナブルなソフトが多いのである。


 こうしたデフレ傾向に対して新作ゲームはきちんとした差別化を図らないとならないわけで、
現状でこうしたゲームに対抗するのにどうするのかと言うと、高解像度化と高画質化しか手段を持たない
ソフト会社ばかりなのが現状だ。
 しかし、画質を向上するのはお金が掛かる上、時間も掛かる。
 リアルにすればするほどゲームデザインレベルデザインは複雑化し大味なゲームが生まれてしまう。
しかも折角手間を掛けても中途半端な手間暇ではかえって陳腐化してしまう。
iphoneに至っては十分すぎるほど3次元CGの性能が高く、それらと対抗するには生半可な映像では
誰も振り向かない。
 しかもユーザーは開発者が期待しているほど映像に訴求力を感じていない。
プレイステーション時代にムービーを多用しすぎた為、皆が美しいCGに慣れてしまったのだ。
だからインパクトのある映像を作らないといけない。それは更なるコスト増大をもたらすのである。


 では任天堂はこの問題にどう対処したのか。 それは高画質路線に一定のブレーキをかけることだった。
 Wiiリモコンは従来のコンソールと一線を画するものでありWiiで無ければ遊べないコンテンツを用意することに腐心した。
これはサードパーティには厳しい要求だ。 当時のソフト会社カジュアルゲームに対抗するには高画質化しかないと思い込んでいた。
今もプレイステーション3に未だ夢を抱き任天堂をバッシングしている人は少なからずいる。
 結果的にハード会社でもある任天堂とは基礎研究に極端な差が生まれた。
後になってWiiに参入すれば売れると思って安易にWiiに参入したゲーム会社はそこで躓いたのである。
 ユーザーが欲しがっていたのはWiiだから体験できるものであり、Wiiで遊べる従来ゲームなら
バーチャルコンソールで十分だったのだ。


 かくしてゲーム会社の収益構造は崩壊しつつある。
 ソフト会社は更なる工夫でユーザーをつなぎ止める工夫をしないといけない。
 ドラゴンクエスト9をヒットに導いたすれ違い通信など、そのゲームコンテンツでしか味わえない楽しみを
提供しないと収益までの道は遠いだろう。 
 デフレ傾向はテクノロジの進化による参入障壁の低下やハードの制約低下が導いたものである。
それらを打開する方法はまず期待できない。 
 過去のソフトや安価なカジュアルゲームと競争しないとならない極端なレッドオーシャンが今のゲーム業界の
姿なのである。